実際にあった雇用トラブル~事例集その1~

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あなたの会社が残業できるかをチェック近年、雇用中のトラブルは増えており、平成27年度の総合労働相談は100万件を超えました。
これは8年連続の増加となります。

これまでに、就業規則や給与規程、各種保険等について解説してきましたが、従業員採用を前にしっかり準備をしていても、思いがけないことで裁判沙汰になってしまったということがあります。
そこで、雇用中に実際に起こったトラブルの例から、どのような事柄が法的に問題になるのか、または問題にならないのかについて、さらに詳しく学んでいきましょう。
起こり得る問題を事前に想定して対策を練っておくことで、従業員と会社の両者が幸せになれる会社づくりを目指せます。

実際にあったトラブル「長時間労働問題」

質問:
残業のしすぎにより鬱になったと従業員の家族から、労災請求をされてしまいました。
残業代も支払っています。何かおかしいとは感じていましたが、まさか鬱になるとは思いませんでした。
こちらに非があるのでしょうか。

答え:場合によっては、労働基準監督署による書類送検が行われることがあります。

まず、従業員の過重労働が企業リスクにつながることを理解しておく必要があります。
労働基準法では労働時間の限度を、原則として1週40時間以内、かつ1日8時間以内としています(労働基準法第32条)。

これを超えて働いてもらうため、また、法定休日に働いてもらうためには、労働基準監督署に「時間外労働・休日労働に関する協定届」を届け出なければいけません(労働基準法第36条)。

これは通称「36(サブロク)協定」と呼ばれています。
36協定を届け出ていない企業の残業指示は、明確な法律違反です。
たとえ口頭で従業員から同意を得ており正しく残業代が支払われていても、36協定なしの残業は違法なのです。
厚生労働省が発表した「労働基準関係法令違反に係る公表事案」では、36協定未提出による残業について送検された企業名が掲載されています。

実例をいくつか挙げます。
あるタクシー会社のタクシー運転手が脳梗塞を発症しました。
脳梗塞と過重労働はまったく関係なさそうに思えますが、過重労働が原因であるとして労災が認定されたのです。
さらに、退職後の労働者が自殺をしたケースでも、過重労働が原因として遺族から労災請求され、業務上の災害と認定されたことがあります。

いま、長時間労働とメンタルヘルスとの関連性の研究がすすんでおり、長時間労働による鬱病、脳梗塞などの病気に結びついてしまった場合も、労災が認定されてきています。
この場合、経営者としてその責任を問われる可能性は充分考えられます。

このように、人を雇うという行為は、多大な責任が生じます。
リスクにさらされないために、経営者がまずすべきことは、就業規則に「業務上の必要性に基づいて時間外労働を命ずることがある」と記載しておくことです。

さらに雇用契約書などにも、規定しておくとよいでしょう。
ただ、これらをしたからといって、従業員にいくらでも残業を指示できるというわけではありません。
限度基準があることを覚えておきましょう。

過重労働に陥らない具体的な対策としては、
・経営者が自ら、働き方に関するメッセージを発信
・「朝型勤務」「ノー残業デー」「ノー残業ウィーク」など、効率的な働き方を促す取り組みの導入
・時間外労働時間の見える化
・部下の長時間労働抑制について、管理職教育の実施や人事考課項目としての追加
・一定の時刻になった際のPCの強制シャットダウン
などが有効です。

従業員が、過労死や自殺、鬱などになると、労働基準監督署による書類送検が行われることがあります。
刑事罰もありますし、企業名や事業場名が公表されたりします。
民事訴訟が行われ、多額の賠償金の支払いを請求されることもあります。
残業が何日も続くようなときは、経営者は従業員の身体的健康、精神的健康の両方に充分な注意をはらうようにしましょう。

実際にあったトラブル「懲戒解雇問題」

質問:
店が繁忙期で忙しいので、ある社員に事前に残業をお願いしたところ「その日は、デートがあるのでできない」と拒否されました。その繁忙期は1年に1度の重要なセール日にあたります。会社命令に従わないで残業を拒否した社員を懲戒解雇することはできるのでしょうか?

答え:就業規則に基づいた一定の手続きが必要です。

社員に残業をしてもらうためには、まず使用者としてすべきことがあります。
労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者との間で書面による協定を行い、この書面を労働基準監督署に届け出る必要があります(36協定)。

そのうえで、36協定の範囲内で一定の業務上の理由があれば、就業規則に「労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる」旨を定めることによって、当該就業規則の規定が合理的なものである場合に限り、具体的に労働契約の内容を定めることができます。

これで、労働者は残業をしなければならないことになります(日立製作所武蔵工場事件・最一小判 平成3年11月28日)。

ただし、36協定と就業規則の規定があるからといって、残業を拒否すれば即解雇できるわけではなく、就業規則に基づき、一定の手続きを行わなければなりません。
前記の判例のケースでは、残業を拒否した社員に出勤停止の懲戒処分を行っています。
その後も残業を拒み続け、懲戒処分を3回行っても改善されなかったので、やむなく懲戒解雇に踏み切ったのです。
このケースでは、懲戒解雇された社員が、解雇後「解雇が無効である」と会社を訴えましたが、会社が勝訴して解雇が認められました。

この会社の就業規則には残業を命じる場合、「生産目標達成のため必要ある場合」「業務の内容によりやむを得ない場合」「その他前各号に準ずる理由のある場合」と記載されていたことが勝訴の大きな要因です。

判例では、これについていささか概括的、網羅的であることは否定できないが、これらの記載事項が相当性を欠くとは言えないと判断されました。

就業規則とは、裁判においてこれほど力を発揮するものなのです。
就業規則という文書で従業員と契約を交わしておくのは、ひじょうに大切です。
ただし、家族の介護や育児など「正当とされる理由」があれば、残業させることはできません。

ある会社では「パソコンで目が疲れたから、これ以上残業して書類作成をすることはできません」と拒んだ従業員の訴えが認められたケースもあります。
従業員本人や上司が正当であり、妥当だと考える理由が存在すれば、パソコンで目が疲れたことも「正当な理由」と判断されるのです。

あなたの会社が残業できるかをチェック

 

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