会社を創業してしばらくは、売上が不安定で赤字続きの場合が多いのではないでしょうか。そのような時は、赤字を何らかの方法で補填しなければなりません。そこで有効なのが資本準備金を取り崩し赤字の補填に充てる方法です。
今回は、資本準備金を取り崩しの際に必要な手続きなどに関して解説していきます。
1.資本準備金とは
資本準備金とは、資本金の1/2の金額を超えない範囲で準備金として積み立てられるお金のことです。
株主が株式会社に対して払い込んだ金額が資本金ですから、例えば株主から1,000万円の払い込みがあった場合、その1/2の金額にあたる500万円までは資本準備金として積み立てることができます。
このように、創業にあたって全額を資本金にあてるのではなく一部を資本準備金としておくことで、経営が不安定な時期に資本準備金からお金を取り崩し、会社の財産である資本金を減少させることなく会社を維持することができるのです。
資本準備金と似た言葉に「資本剰余金」があります。資本剰余金は、株主からの出資金など資本取引によって発生した余剰の金額です。例えば、株主に分配する配当金は資本剰余金が原資になります。また、資本準備金や資本金を取り崩して資本剰余金に充当した後、配当することも可能です。
資本金、資本準備金、資本剰余金の違いについては下記記事でも詳しく解説しています。株主や投資家からの評価にも大きく関係しますので、ぜひチェックしてみてください。
2.資本準備金を取り崩すための2つの手続き
資本準備金は正しい手続きを踏まえれば、取り崩すことができます。事業が困った状況に陥ったときのために用意しておくお金ですから、資本金と比べると動かしやすくなっているのです。
資本準備金を取り崩す目的としては、会社の業績悪化から赤字が発生し剰余金のマイナスを補填する場合が多いのではないでしょうか。また、資本金を増額するために資本準備金を取り崩すこともできます。
資本準備金を取り崩すための手続きは大きく分けて2点あります。1点目は資本準備金の減額に関する株主総会での決議、2点目は債権者保護の手続きです。
なお、場合によっては債権者保護の手続きは不要なこともあります。
下記でそれぞれの手続きについて解説していきます。
(1)株主総会での決議
資本準備金を取り崩す場合、株主総会で普通決議することが求められます。
具体的には以下の3点を株主総会で決議します。
・減少する資本準備金の金額
・減少させた資本準備金の全額もしくは一部を資本金に回す場合は、その旨並びに資本金に回す金額
・資本準備金の減額を施行する日付
ただし、資本準備金の取り崩しと株式の発行を同時に行い、資本準備金減少後の金額がそれ以前の金額を下回らないのでしたら、株主総会で決議をする必要はなく、取締役会の決議で行うことができます。
(2)債権者保護の手続き
資本準備金を取り崩すにあたっては、原則として「債権者保護の手続き」を踏むことも必要です。
債権者保護の手続きとは会社法で定められた以下の3点を官報を通じて公告した上で、知れている債権者に個別で通知する手続きのことです。債権者の利益を保護するために義務付けられています。
・当該資本金等の額の減少の内容
・当該株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
・債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
(引用:会社法第四百四十九条第二項)
ただし、知れている債権者への個別の報告は「ダブル公告(二重公告)」という手法で省くことも可能です。
「ダブル公告(二重公告)」とは、官報による公告のほか、定款の定めに従い日刊新聞紙上での公告もしくは電子公告をする場合は、債権者に対する各別の催告が省略可能になるという制度です。
また、知れている債権者がいないのでしたら、個別の報告はできないのでする必要はありません。しかし、債権者がいるにもかかわらず、債権者保護手続きをしなかった場合、瑕疵があるとして株主や債権者等から無効の訴訟を起こされる可能性もあります。債権者がいるかどうかの判断には十分注意してください。
なお、以下の2点のうちいずれかに当てはまる場合は債権者保護の手続きが不要となります。
・取り崩した資本準備金の全額を資本金にあてる場合
・資本準備金の取り崩し金額を株主総会で決議し、決議日に欠損の額が法務省令の指定する手法によって算出される金額を超過しない場合
■経営支援ガイド豆知識
「公告」については、馴染みのない方が多いかもしれません。公告とは、会社法で定められた法令上の義務により、特定事項を一般公衆に告知することです。日本国内では、「官報」がその機能を担っており、行政機関の休日を除く毎日発行されています。現在は、「インターネット版官報」をWeb上でも閲覧することができ、直近30日分の官報は全て無料で読むことができます。ぜひ一度アクセスしてみてください!
3.資本準備金を取り崩すのに必要な期間
いざ資本準備金から取り崩すことを決めた後に、実際にどのくらいの期間がかかるでしょうか。
さきほど開設した債権者保護手続きが必要な場合、着手から資本準備金の減額が可能になるまでには、一般的に2ヶ月前後かかるといわれています。
一方、債権者保護手続きが不要な場合で、株主総会を即日行える会なら、資本準備金を1日で減額することも可能でしょう。
まとめ
資本準備金を取り崩す場合、会社法で決められた手続きを踏む必要があります。
ただし、資本準備金を取り崩すことができれば、赤字の欠損を補填できるため創業間もない時期は知っておいて損はありません。
いざという時のために資本金の取り崩し方を把握しておきましょう。