中小企業庁のデータによると、現在日本の開業率は5%前後と欧州諸国が13%~14%であるのに比べ、圧倒的に低いという実情があります。(参考:平成29年度(2017年度)の中小企業の動向|中小企業庁)その要因として、日本は欧州諸国よりも起業を行う際の申請が複雑で、費用もかさむため、起業に対する意識が育ちにくいということがあります。そもそも日本は欧州諸国と比べ起業家に対する支援は決して充実しているとは言い難いのです。
一方で経営や企業に関わるセミナーなどの「起業家教育」は人々の起業意識を高めると考えられています。そう言った起業家教育は行政が主催して行う場合と民間の創業支援事業者が執り行う場合があり、国は民間の創業支援事業者の活動を支援する取り組みを行っています。
今回は創業を支援する人々を支援する「創業支援事業者補助金」についてご説明します。
1.創業支援事業者補助金とは
創業支援事業者補助金とは新たな雇用の創出と地域の活性化を図ることを目的に、創業支援事業を行う民間事業者を対象に、創業支援の取り組みにかかる費用・経費の一部を補助するものです。つまり、創業支援事業者補助金は創業する人を支援することを目的とした事業主の方が対象となる補助金です。
創業支援事業者補助金の補助を受けるには、市区町村と連携している創業支援事業者である必要があり、「特定創業支援事業」もしくは「創業機運醸成事業」のいずれか、または両方の事業を行っている場合になります。
(1)特定創業支援事業とは
創業に必要な基本知識である事業計画書の作成方法や宣伝広告、経営戦略や経営マネジメントを体系的に学ぶ継続的支援事業のことであり、創業支援の中では一般的なものです。
(2)創業機運醸成事業とは
日本は欧州諸国と比べ、「創業無関心者」と呼ばれる層が多くいます。そう言った層に働きかけ、各地域で創業の動きを活発化させ、地域の活性化を目的に、現段階で創業に興味を持っていない人々を対象としたワークショップやビジネスプランコンテストの開催などを行う事業です。
(3)いくら補助されるのか
創業支援事業者補助金の補助率は補助対象経費の3分の2以内であり、補助額が最低50万円~最大1,000万円となっています。
補助対象経費は以下のものです。
・人件費:市区町村創業支援事業計画の始期以降に雇用した者 ・謝金:セミナー講師、相談対応専門家、講演者等 ・旅費:講師、専門家、講師事前打合せの為の職員旅費等 ・設備費:創業支援対象者が利用する為に必要なリースレンタル備品 ・会場、事務所賃借料:コワーキングスペースやインキュベーション施設の事務スペース以外、セミナー等の会場借料等 ・広報費:チラシ・ポスター・看板代、折込料、新聞掲載費、フェイスブック広告費用、のぼり代等 ・委託費:複数事業者での申請の場合、代表者以外の事業者の利用する事業費 |
また、上記の項目に当てはまっていたとしても、補助事業以外の用途で使用可能なものや補助事業者の役員や雇れている者に対して支払われる謝金、事業計画に記されていない事業の宣伝広告が掲載されている広告物などは創業支援事業者補助金の対象外となります。
2.創業支援事業者補助金申請の流れ
(1)創業支援事業者補助金を受けるためには認定申請から
創業支援事業者補助金の補助を受けるには、まず認定申請を行う必要があります。
申請には公募期間内に以下の書式を記入の上、創業支援等事業者補助金事務局へ提出します。
①補助事業計画書(原本1部・写し1部) ②経費明細表(原本1部・写し1部) ③市区町村による確認書(原本1部・写し1部) ④創業支援等事業者補助金経費チェックリスト(原本1部) ⑤反社会的勢力ではないことの表明及び確約について(原本1部) ⑥市区町村による認定創業支援等事業計画の該当箇所の写し(2部) |
これらは電子媒体での提出も可能です。各様式のダウンロードはこちらから出来ます。
参考|創業支援事業者補助金
申請できる補助事業計画は1つとは限りません。1つの創業支援事業者で複数の補助事業計画を出すことが出来ます。また、1つの補助事業計画を複数の認定創業支援事業者が共同で申請することも可能です。
(2)採択審査について
提出された補助事業計画をもとに、採択審査が行われます。審査を通過するには以下の項目を満たしていなければなりません。
①必要書類が漏れなくすべて提出されていること ②産業競争力強化法第127条第1項の認定を受けた創業支援等事業計画に基づき、市区町村と連携して創業支援等事業に取り組む創業支援等事業者のうち、その代表者となる法人であること ③特定創業支援事業または創業機運醸成事業、あるいはその2つを行っている。 ④認定創業支援等事業計画の内容と整合していること ⑤補助事業を遂行するために必要な能力を有すること |
また、以下の補助事業計画が以下の項目において一定の基準を満たせない場合、採択されない場合があります。
①事業内容の妥当性 ・創業支援等事業の実施内容が具体的に示されているかどうか ・補助事業を適切に遂行すると共に十分な事業費の額及び積算となっているかどうか ②事業計画の実効性 ・補助事業を適切に遂行するために十分な活動基盤が備わっているかどうか ・適切な地域の現状分析及び過去に実施した創業支援の効果分析を考慮した目標の設定、補助事業計画となっているかどうか ・民間活力を生かした創業支援の取り組みとして高い効果が見込まれるかどうか ③創業支援等事業の新規性・波及性 ・地域において新規性のある取り組みが提案されているかどうか ・市区町村及び認定創業支援等事業者が連携した地域ぐるみの取り組みであるかどうか ④政策的意義 ・創業支援の広がりが見込めるかどうか ・地域の創業状況を踏まえ、我が国の開業率向上に資する事業計画であるかどうか ・提案された事業計画に創意工夫が見られ、また実施可能な計画となっているかどうか ・地域における創業支援が持続的に自立して行われる見込みがあるかどうか ・5年連続の申請先のみ全国実績平均との比率比較を行う |
5年間連続で同じ事業の補助金申請を行う事業者については、各年度における1)「創業支援者数」に対する「創業者数」の割合と、2)最初に補助金申請を行う前の年から起算して4年度分までの間で、創業支援対象者数」に対する「創業者数」の比率を年平均した数値を算出し、1)が2)を過去3年間連続で下回っている場合は、創業支援等事業計画の認定において、補助対象事業とする創業支援等事業計画の内容の見直しを条件として採択が行われます。
(3)結果の通知、そして交付申請へ
結果は採択・不採択の如何に関わらず、申請者全員に対して通知されます。結果の通知まではおよそ1か月~2か月程度かかります。
また、採択を受けても安心してはいけません。補助金の交付を望む場合、採択後に「交付申請書」を提出しなければならないからです。
交付申請を行った事業主はその後、事業費の額及び積算内訳が精査され、交付決定額を交付決定通知書によって通知されます。
(4)交付決定後に補助事業の実施を行う
創業支援事業者補助金の交付が決定された後は、定められた事業実施期間で、提出した補助事業を行います。その際、事業実施期間内に諸経費の支払いを終わらせておかなければなりません。仮に事業実施期間内で発生した経費であっても、事業実施期間外に行われた支払いについては補助金の対象外となるので注意しましょう。
まとめ
創業支援事業者補助金は、創業者を支援する事業者に対して支払われる補助金です。
創業支援事業者補助金は基本的に自治体や市区町村と連携していることが前提となっているので、民間の創業支援事業者が単体で行うよりもより地域に根差した活動となり、教育機関に対する起業への意識の向上を促すことも期待でき、起業に関心を持っていない若年層により活発に働きかけることが出来ます。
日本よりも起業に対する意識が高い欧州諸国では学校教育の時代からキャリア教育の拡充が推進されています。日本の起業率を上げるには幼少期からの学びが大切です。その点で将来の起業への足掛かりを作っている創業支援事業を支援することは、確かに大きな意義があるといえるでしょう。
(※令和2年度の創業支援等事業者補助金は予定されていません)