起業したばかりの経営者ほど税理士が必要といえます。
税理士を雇うとさまざまなメリットがありますが、雇いたくなる税理士にはどのような条件の人がいいのかを、前回に引き続きご説明します。
条件その③
税務署と闘い、経営者を守ってくれるか
税務署に従う税理士は問題外
経営者が怖れるもの──
それは、税務調査です。
「泥棒対策のためにセキュリティー会社と契約した」という感覚で、「税務調査対策のために顧問税理士と契約した」と保険のように考えている経営者が多いのが事実です。
しかし……。
いざ、税務署が税務調査に入ったときに、弱腰でまったく頼りにならない税理士がよくいます。なぜなら、会社が税務署を怖れるのと同じく、税理士も国家権力を怖れるからです。
昨年、税務調査に入られた中小企業の女性経営者Eさんの話です。
ある日、税務署から電話があり、一方的に3日後に税務調査が行われる旨を知らされました。
Eさんは、普段から正しい申告を心がけており、後ろめたい点は露ほどもありませんから、その要望を受け入れると同時に、「こんなときこそ」という思いで、長年付
き合ってきた税理士にすぐに連絡し、税務調査の日に立ち会ってもらうことにしました。
「顧問税理士は元税務署員だから、とくに問題は起こらないだろう。もしかしたら世間話だけで終わるかも」
そのぐらい軽い気持ちでした。
税務調査当日。会社の応接室で話をしているうちに、税務署員が「Eさんの5年前の個人の預金通帳を見せてくれ」と言い出しました。
個人の預金通帳ですから、自宅の寝室のタンスに保管されています。そこで、会社を出て自宅へ取りに行こうとすると、税務署員が「付いていきます」と強い口調で言うのです。
寝室ですから、下着などもあり、そこは個人のプライベート空間です。他人に見られて気持ちがいいわけではありません。
しかし、一緒にズカズカとやってきた税務署員は、タンスの引き出しを開けていたEさんに「その引き出しのなかのものをすべて見せてください」と中身をすべて取り上げてしまいました。
Eさんは「ここまで恥ずかしい思いをガマンしなければいけないのか」と非常に不快に思ったそうです。
またプライベート空間に入ってこられたこと以上にショックだったのが、顧問税理士の対応でした。税務調査の間中、なにも言わず口を開けば、税務署員と同じ言葉のオウム返しでした。
つまり「売上元帳を見せて下さい」と税務署員が言えば「売上元帳はどこですか」と言うだけ。
「○月○日に△△という店で30,000円の支払いをされていますが、何を購入されたのですか」と問われると「これは何の支払いでしょうか」とEさんの顔を見て言うだけ。
「まったく頼りにならない税理士だ。何のために日当を支払って呼んだのかわからない」
憤慨したEさんは、この税理士との顧問契約を解除してしまいました──
このような例をご紹介すると「だから私は税理士に期待しないんだ。高いお金を出して顧問契約するよりも、自分で済ませておいて、税務署が来たらそのときは、そのときだ。何とかなるだろう」とうやむやにしてしまう経営者もいるようです。
ですが、あきらめないでください。
経営者側に立ち、国家権力を拡大解釈したような無茶な要求をきっぱりとはねのけ、戦ってくれる税理士は大勢います。
いい税理士の条件、3つめのポイントは税務署と戦ってくれることです。
ためしに「税務調査○○」(※○○は地域名)でインターネット検索をしてみてください。
多くの税理士事務所、法人が表示されるはずです。そこには「税務調査への対応は、お客様のために最優先事項として取り組みます」
「税務調査の際は、注意点をあらかじめお教えし、リハーサルを行ったうえで、誠意をもって立ち会います」
という文言がずらりと並んでいます。
税務署と戦う税理士は、地域に大勢いるのです。
税務調査は事前の相談で乗り切る
では、戦う税理士は、実際にはどのような対応をしてくれるのでしょうか。
Eさんの例を参考に代表的な対応をご紹介します。
まず、税務署からの連絡で一方的に日程を決められていますが、いい税理士は「もし税務調査の連絡があった場合、その場で日程を決めずに『顧問税理士に相談して、あらためてこちらから候補日をご連絡させてもらいます』と言うようにしてください」
とあらかじめ経営者の方にお知らせしてあるはずです。
また「プライベート空間への侵入」に対しては「いまは法人の税務調査に来ておられるのでしょう。個人の税務調査ではないはずです。また、Eさんが通帳をもってこないと拒否しているのなら別ですが、本人にもってくる意志があるのに、個人宅についていく必要はないはずです。トイレにでも付いていくつもりですか」ときっぱり断ってくれます。
当日の対応についても、しっかりとリハーサルがなされており、「必要なこと以外は、一切お話にならないでください。最初の1時間だけお付き合いください。その後の質問には、私がすべて対応いたします」
と責任をもってサポートする姿勢を明らかにしてくれます。
そのため税務調査日は、「売上元帳はどこですか」「ここにあります」「○月○日の領収書は何ですか」「△△に使用いたしました」と即答を繰り返していくことになり、半日も経つ頃には「この会社に修正申告をしてもらうのは、ムリそうだな」という印象を税務署員に与えることができるでしょう
一昔前は、戦う税理士は少数派であり、見つけることは難しい時代でした。
ですが、いまでは、戦う税理士が多数派になり、彼らを見つけることはIT技術の進歩で容易になりました。税務署と戦ってくれる税理士は、じつは大勢いるのです。
正しい決算書を作成し、正しい申告をしていれば、税務署を怖れる必要は、これっぽっちもありません。
条件その④
業界に精通しているかどうか
税理士にも得意不得意の業界がある
この記事をお読みの方々には「税理士って誰でも一緒だろ」という認識の方がいらっしゃるかもしれませんが、それは間違いです。
弁護士に会社整理の専門家、知的財産の専門家、医療訴訟の専門家がいるのと同じで、税理士にも専門分野があります。
自分が顧問を依頼する場合、その税理士がどの分野を専門にしているのかを知っておく必要があります。
たとえば、中小零細の製造業が多い地域で開業している税理士なら、自然と製造業に関する知識が増え、その分野の専門家になっていくでしょう。商店街などに近い税理士事務所であれば、お客様は自然と小売業が中心になっているはずです。
最近では、IT業界や美容業界、建設業界など、業種によって得意分野をもっている税理士も多くいます。
ここで何度か述べているように、平成14年度の税理士報酬規定の撤廃により、業界は「税理士大戦国時代」へと突入しました。顧客の奪い合いがはじまったのです。
新しく開業した税理士は、すでにライバルがいる地域で開業しなければいけません。
競争相手が何十年も地域に根付いていて、顧客の信用を勝ち得ていると、そこにムリヤリ割って入る余地はありません。
となると、開業当初から
「私は医業、なかでも歯科医院を中心に顧客の範囲を拡げていこう」
「保育園やデイサービスなど、社会福祉法人の経営をみていこう」
とある程度、顧客対象を絞って、開業する税理士が増えてきているのです。
既存の税理士も、「新規顧客が獲得できない。不景気のせいだろうか。とはいえ、飲食店の開業は景気にかかわらず、よくあるはず。新規顧客は、飲食店関連を中心にアプローチしよう」
と既存のお客様に加えて自分の専門範囲を決め、顧客層を広げているのです。
いい税理士の条件の4つめは、業界に精通しているかどうかです。
少しでも自社の経営状況をよくしていこう、そのために外部の経営アドバイザーとして税理士を活用していこう、という経営者なら、自分の業種に強い税理士かどうかを確認してみるのもいいでしょう。
簡単にチェックする方法は、ホームページです。
ホームページをみると、会計事務所の得意分野などが明示されているほか、その業種に対しての税理士の見解や、経営アドバイスが記載されていることもあります。
その内容の是非で強みを判断できるはずです。
税調対策や経費削減のメリットも
では実際に、特定の業種に強い税理士を顧問にすると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
1つは税務調査対策です。
税務署が調査先を決めるとき、ある勘定項目が支出全体に対してどれぐらいの割合
を占めているのかを見て、突出している部分がないかどうかでチェックしています。
たとえば、建設業界の場合、売上に占める材料費の割合が16%程度だと言われています。これが25%超だと税務署はどう思うでしょうか。本来材料費ではない経費を算入することで、利益を減らし、脱税しているのではないかと疑うのです。
そこで建設業界に強い税理士なら
「御社は材料費率が今期25%となっています。平均は16%ですから、他社に比べて9%ほど高いようです。ここまで突出していると、経営を圧迫するだけでなく、税務署にあらぬ疑いをかけられます。
来期は数字を抑えるよう一緒に努力してみませんか」と適切なアドバイスをしてくれるのです。
また、もう一つのメリットは、経営コンサルティングです。
つぎの事例は建設業界専門の税理士と、ある顧客の会話です。
「社長、材料費率25%を少しでも減らすため、仕入れ先の変更を検討されませんか」「とはいえ、長年付き合っている仕入れ先で、支払いもツケ払いが許されるので、いつもそこから仕入れてしまうんです」
「それなら、購入と同時に代金を支払うとどの程度安くなるかを交渉してください」
「あの仕入れ先は、当社が支払いを遅らせている分、金利程度を上乗せしていたようだ。
それは知らなかった……」
「そうですね。それから10万円以上の材料費の購入は相見積もりをとる──というように一定の価格以上は2社以上の見積もりをとるよう社内規定をつくっておくと、材料費の削減につながるはずです」
業界に精通している税理士をみつけると、このような具体的な数値をもとに、経費削減のコンサルティングができます。
自社の経営にとっても、きっとプラスになるはずです。