会社の設立を検討している人の中で、会社設立費用をなるべく抑えたいと思っている人もいますよね。費用を抑える方法などについて調べていく中で、会社の設立が1円でできると聞き、本当に可能なのか疑問に思っている人もいるでしょう。
会社の設立は、設立手続きの際に「法定費用」が発生するため1円で会社を設立することはできません。一方で、会社設立時の資本金は1円とすることが可能ですが、資本金が1円の会社は設立後の事業運営が厳しくなる、という点に留意する必要があります。
当記事では、会社の設立は1円ではできない理由と最低限必要な費用を解説します。会社設立費用を抑える方法や資本金額の目安となる費用についても知りたい人は参考にしてみてください。
1円では会社を設立することはできない
会社の設立は、会社法に則って設立手続きを行う必要があり手続きの際には「法定費用」が発生します。したがって、1円では会社を設立することはできません。
【設立手続きで発生する法定費用 内訳】
発起人1名で会社を設立、資本金100万円未満の場合
費用の名称 | 株式会社 | 持分会社(合同会社・合資会社・合名会社) | |
---|---|---|---|
定款認証手続きにかかる費用 | 定款認証手数料 | 30,000円
※資本金額に応じて変動 100万円未満:3万円 100万円以上300万円未満:4万円 300万円以上…5万円 |
0円 |
定款謄本手数料 | 2,000円 | 0円 | |
定款印紙代(印紙税) | 40,000円 | 40,000円 | |
定款認証手続きにかかる費用 | 登録免許税 | 150,000円 | 60,000円 |
その他設立に必要な必要 | 会社の印鑑代 | 素材により変動 | 素材により変動 |
印鑑証明書代 | 600円 | 300円 | |
合計 | 222,600円 | 100,300円 |
たとえば、株式会社の設立には「定款認証」と「法人登記」手続きを行うため、約22万円の法定費用が最低限必要です。定款認証手続きで発生する「定款認証手数料」は資本金額に応じて変動するため、資本金を100万円未満にすることで法定費用を最小限に抑えることができます。
また、合同会社の設立には定款認証手続きが不要なため「法人登記手続き」のみ行い、約10万円の法定費用が最低限必要です。株式会社の設立と比較すると、設立手続きの違いにより約14万円の差が生じるため、合同会社を設立することで法定費用が抑えられると言えるでしょう。
なお、設立手続きを自分で行うことで専門家へ依頼した場合の代行報酬料が発生しません。会社設立費用を抑えたい人は、設立手続きを自分で行う方法として書籍や法務局HP、法務局の無料相談窓口などが活用できるので参考にしてみてください。
会社設立時の資本金は1円から出資が可能
会社の設立には法定費用が必要なため1円では会社を設立することができませんが、会社設立時の資本金は1円から出資が可能です。資本金の出資が1円から可能となったのは、2006年に会社法の改正が行われ、新会社法が制定されたからです。
新しく制定された新会社法は、「商法第二編」「有限会社法」「株式会社の商法特例法」を統合した会社のルールを規定する法律です。会社法の改正前では、株式会社の設立には1,000万円の資本金が必要でしたが、「最低資本金額制度の撤廃」により資本金1円で会社設立が可能となりました。
そのため、会社設立費用をなるべく抑えたい人は「資本金を1円」にすることで会社設立費用を抑えることができます。「法定費用」は設立手続きのために最低限必要ですが、改正前に比べると初期費用を大幅に抑えることが可能になったと言えるでしょう。
なお、日本政府が公表する「政府統計ポータルサイト e-Stat、2023年5月の資本金統計」によると、設立した会社11,407社のうち100万円以下の資本金で設立した会社は3,027社います。会社設立時の資本金額を少額で検討している人は、参考の1つとしてみてください。
資本金を1円にすると事業の運営が厳しくなる
資本金1円の会社設立によって会社設立費用を最小限に抑えることが可能ですが、資本金を1円にすると事業の運営は厳しくなります。資本金1円の会社は、資金不足や信用力低下などに陥り運営を行うことが難しくなるからです。
【運営上行うことが難しくなること 一例】
- 運営許可を得ること
- 設立後の開業費用や運転資金を支払うこと
- 法人口座を開設すること
- 会社を発展させること
たとえば、資本金が1円だと「運営許可を得ること」や「開業費用や運転資金を支払うこと」ができない可能性があります。事業を始めるためには「開業費用や運転資金」と、業種によっては「運営許可」を得る費用が必要なため、1円では費用が足りず事業を開始することが難しくなります。
また、資本金は会社の財産と見なされるため、極端に少ないと「倒産リスクが高い会社」と思われ、社会から信用や評価を得にくくなる傾向にあります。その影響により「法人口座を開設すること」や「会社を発展させること」が難しくなり、事業の運営が厳しくなる恐れがあります。
なお、例外として副業や個人事業の「取引先の要望」に応える形で法人会社を設立する場合には、資本金が1円でも事業運営が継続できる可能性もあります。例外を除き、資本金1円の会社を設立した場合に考えられる「運営上難しくなること」を1つずつ確認してみましょう。
運営許可を得られない可能性がある
資本金1円の会社を設立した場合には運営許可を得られない可能性があります。業種によっては事業を開始するにあたり、国や地方自治体の「許認可」を得る必要がありますが、運営許可の審査要件に「一定額以上の資本金であること」としている業種もあるからです。
たとえば、資本金を要件としている業種として建設業が挙げられますが、一般建設業は「自己資金が500万円以上であること」としています。資本金1円では運営許可を得られませんので、要件を満たす資本金額で会社を設立しなければなりません。
また、資本金が要件になく運営許可を得ることができても、資金不足によりすぐに事業を開始することは難しいです。個人の資産から貸付することも可能ですが、資本金として用意することで、資産の区別ができ個人の生活が圧迫されることを防げるでしょう。
なお、許認可を得る際の審査要件などは、業種や事業所在地によって異なります。許認可を必要とするおもな業種を下記一覧表にまとめましたので、許認可業種の会社設立を検討している人は、管轄窓口を検索し詳細を確認してみてください。
業種 | 管轄窓口 |
---|---|
飲食業 | 事業所在地の各保健所 管轄区域案内 |
理容美容業 | |
病院開設 | |
食品小売業 | |
運送業 | 事業所在地の各地方運輸局 地方運輸局一覧 |
労働者派遣事業 | 事業所在地の各都道府県労働局 都道府県労働局一覧 |
建設業 | 事業所在地の各許可行政庁 許可行政庁一覧 |
酒小売業 | 事業所在地の各税務署 酒税やお酒の免許についての相談窓口一覧 |
開業費用や運転資金を支払うことができない
資本金1円の会社を設立した場合には開業費用や運転資金を支払うことができなくなります。そのため、事業の継続ができなくなり事業の運営は厳しくなります。
会社を設立後、事業を開始できる状態にするには「開業費用」が必要です。オフィスや店舗の家賃や地代、設備費用などに掛かる開業費用は事業内容や業種によって異なりますが、1円以上の出費は考えられますので、資金不足により事業を開始することができません。
また、事業を継続するためには、毎月または定期的に発生する「固定費」や「変動費」を賄うための運転資金が必要です。設立した会社が赤字でも、税金や社会保険料などの固定費は支払義務があり、資本金が1円であると資金不足により滞納することになり兼ねません。
なお、資本金の目安は「開業費用」に加えて「運転資金数か月分」を概算した金額から考えるとよいでしょう。運転資金の不足は経営破綻の要因になり得るため、資本金で賄うことができれば事業が不安定な状態でも経営を続けることが可能になります。
法人口座が開設できない可能性がある
資本金1円の会社を設立した場合には法人口座が開設できない可能性があります。資本金が1円だと「実態のない会社」や「不信な会社」と判断される可能性が高いためです。
法人口座を開設するには金融機関の審査を受ける必要があります。資本金が1円の会社は審査において、マネーロンダリングや詐欺などに利用されるのではと不信に思われ、法人口座の開設を断られる可能性が高くなります。
また、資本金額が経営力の判断材料となる場合もあります。法人口座の審査基準は金融機関によって異なり、開設の目的や事業内容なども見られるため資本金のみで判断されるとは言えませんが、資本金が1円だ「倒産リスクが高い会社」と見なされる場合があります。
なお、法人口座の開設は任意ですが、法人口座があることで個人の資産と明確に区別でき会計処理や資産把握がしやすくなるなどのメリットがあります。会社を設立し法人口座の開設を希望する人は、審査基準を考慮して資本金額を決定するようにしましょう。
会社を発展させることが難しくなる
資本金1円の会社を設立した場合には会社を発展させることが難しくなる可能性があります。他企業や金融機関から会社を評価される際に、経営力や信用度の指標として事業内容や事業計画とともに資本金額も見られる場合があるからです。
資本金が1円だと「すぐに債務超過に陥るのでは」と信用を得にくくなります。債務超過とは負債が資産より多くなる状態のことを言いますが、取引後すぐに債務超過になり「代金を支払ってもらえない」のではと判断され、新たな取引先の獲得を行うことが難しくなります。
また、金融機関からの融資や借入れなどを希望する場合には、資本金が1円だと返済能力が低いと見なされ融資を受けることが難しくなります。会社を設立後、取引先の獲得や資金調達により事業拡大を検討している人は、資本金が1円だと不利になるおそれがあります。
なお、資本金の金額は雇用獲得にも影響します。求職者が会社の概要を見た時、資本金額が少額であると「財政状態が不安定なのでは」と判断され信用を得ることが難しくなります。資本金を1円とするかは、設立後に会社をどう発展させたいかをよく検討して決めましょう。
まとめ
会社の設立は、設立手続きの際に「法定費用」が発生するため1円で会社を設立することはできません。法定費用として、株式会社で約22万円、合同会社で約10万円の費用が最低限必要になります。
一方で、会社法の改正により会社設立時の資本金は1円から出資が可能になりました。そのため、会社設立費用をなるべく抑えたい人は「資本金を1円」にすることで会社設立費用を最小限に抑えることができると言えるでしょう。
ただし、資本金を1円にすることで、資金不足や信用力低下などに陥り事業の運営が厳しくなる可能性があります。会社の設立費用をなるべく抑えるために資本金を1円とするかは、会社設立後に考えられる「運営上難しくなること」に留意して検討しましょう。