個人事業主の人の中には、事業が安定してくると様々な要因から法人会社の設立を検討し始める人もいますよね。個人事業主が法人会社を設立することでどのような変化があり、その際にどのようなメリットとデメリットが生じるのか知りたい人もいるでしょう。
個人事業主が法人会社を設立して変わることとして、たとえば「費用面」と「社会的影響面」が挙げられます。節税や社会的信用に関するメリットが得られる一方、これまでに発生しなかった費用や手間がかかるなどのデメリットが生じます。
当記事では、個人事業主が会社を設立する際のメリットデメリットを解説します。法人会社を設立することで変わることやメリットデメリットを理解し、設立するタイミングの見通しを立てたい人は参考にしてみてください。
法人会社を設立すると費用面と社会的影響面に変化が出る
個人事業主が法人会社を設立すると「費用面」と「社会的影響面」に変化が出ます。なぜなら、個人事業主と法人では事業形態が異なるからです。
たとえば、飲食店を経営し事業を行うことは個人事業主でも法人でもできますが、法的な枠組みが異なります。組織などに所属せず独立した「個人」が事業を行う形態を「個人事業主」、法律上認められた組織が事業を行う形態を「法人会社」といいます。
事業形態が異なると、納める必要のある費用の違いや社会に対する印象に違いが生まれます。事業形態の違いは、会社の成長規模や他社との取引のしやすさなどに差を生み、経営方針にも影響を与える可能性があります。
個人事業主が会社の設立を検討しているときは、法人になることのメリットやデメリットを比較が必要です。法人会社の設立を検討している人は「費用面」や「社会的影響面」でどのような具体的変化があり、メリットとデメリットが生じるのかを押さえておきましょう。
個人事業主から法人設立によって変化する費用面のメリットデメリット
個人事業主から法人を設立することで「費用面」にいくつかの変化があります。事業の状況によっては、変化することがメリットとなったりデメリットとなったりします。
【費用面で変化する内容の比較 一例】
個人事業主 | 法人会社 | |
---|---|---|
税金の種類 | 所得税 | 法人税 |
所得にかかる税率 | 所得に応じた「累進課税率」 | 所得に関わらず一律の「比例課税率」 |
経費にできる範囲 | 事業に必要かつ相当なものである費用。消耗品、広告宣伝費、旅費交通費、水道光熱費、通信費、租税公課など。事業用と家庭用とで分ける必要がある費用は「家事按分」が必要となる | 事業に必要かつ相当なものである費用。個人事業主で認められる経費に加え、福利厚生費、生命保険料、代表者の役員報酬などを経費にできる |
赤字の繰越可能年数 | 3年 | 10年 |
社会保険加入の有無 | 要件を満たすと加入義務がある | 原則として、加入が義務づけられている |
たとえば、個人事業主が法人会社を設立した場合、納める国税の種類が「法人税」に変わります。そして、法人税の税額を算定する際に課税所得にかける税率が「比例課税率」という方法に変わり、所得の多少に関わらず一定の金額までは一律の税率となります。
また、経費にできる費用は個人事業主も法人会社も「事業に必要かつ相当なもの」であることと定められていますが、法人会社を設立すると経費として認められるものが増えます。そのため、課税所得額が減り納める税金の額に影響が出るでしょう。
なお、法人会社を設立すると社会保険の加入は原則として義務になりますが、例外もあります。法人設立の際の「役員報酬」が0円の場合、報酬額が社会保険料より下回っている場合には加入を断られ、現在の国民健康保険などを継続加入するという点に留意しましょう。
費用面のメリットは節税が可能になること
個人事業主が法人を設立することで得られる「費用面」のメリットは、節税が可能になることです。おもに3つの点から節税が可能になります。
- 所得によっては、所得税より法人税の税率の方が低くなるから
- 経費として所得から控除できるものが増えるから
- 設立時の資本金額を1,000万円未満にすると税制上の優遇措置が受けられるから
所得額によっては「所得にかかる税率」が法人税の方が低くなるため、納税額を抑えられる場合があります。課税所得額が800万円を超えてくると、所得税を納めるより法人税で納税した方が4,000円ほど軽減でき、1,000万円の場合には10万円ほどの軽減が可能となります。
また、経費として所得から控除できるものが増えるため納税額を算定する基である「課税所得額」を減らすことができ、上記と同様に法人税の納税額を抑えることが可能になります。法人会社の場合、経営者本人の給与や出張手当なども経費にすることが認められます。
設立時の資本金額を1,000万円未満にすると消費税法の「新設法人の納税義務の免除の特例」に該当するため、最長で事業年度2期分の消費税納税が免除となります。法人会社を設立し、納税額の軽減や免除などの節税対策を検討したい人は参考にしてみてください。
費用面のデメリットは運転資金が増えること
個人事業主が法人を設立することで生じる「費用面」のデメリットは、運転資金が増えることです。増える要因として、おもに3つの点が挙げられます。
- 設立資金が必要になる
- 社会保険料の負担が増える
- 経理事務の煩雑化により、専門家の契約と報酬料が必要となる場合がある
法人会社を設立するには「法人登記」を行うことが会社法や商業登記法で義務付けられており、登記申請手続きには費用が伴います。株式会社の場合は約26万円、合同会社の場合は約12万円かかり、加えて資本金の用意も必要です。
また、例外を除き社会保険への加入が義務となるため、社会保険料の支払いと負担が増えます。加入要件を満たした従業員を雇用した場合には、従業員の厚生年金保険料と健康保険料の半額を会社が負担するため、従業員の人数に応じて負担も増えると言えるでしょう。
そのほか、個人事業主の時に比べ法人会社は決算処理や確定申告での法人税の申告が複雑で手間もかかると言われています。事業が拡大し経理事務の処理が煩雑となると、税理士などへの依頼が必要となる可能性があるため、月々に支払う報酬料がかかる点に留意しましょう。
個人事業主から法人設立によって変化する社会的影響面のメリットデメリット
個人事業主から法人を設立することで「社会的影響面」にいくつかの変化があります。法律上認められた存在である事業形態に変化することで、さまざまなメリットやデメリットが生じます。
【社会的影響面で変化する内容の比較 一例】
個人事業主 | 法人会社 | |
---|---|---|
社会的信頼度 | 事業の概要などは自己申告にとどまり、活動の実態が把握しづらいため低いといえる | 法人登記によって会社の概要が社会に公示されるため、高いといえる |
責任の範囲 | 一切の責任は個人。責任の範囲は広い | 有限責任社員で構成する法人の場合は出資額を限度とするため、責任の範囲は狭い |
たとえば、個人事業主が法人を設立した場合には社会的信頼度が変わります。法人を設立する際に必ず行う「法人登記」において、会社の目的や事業内容などが法務局で審査を経て社会に公示されているので、透明性が担保されることになり信頼度が高くなると言えるでしょう。
また、会社が倒産した時などの際に弁済する債務の支払い責任についても変化があります。個人の財産をもってでも弁済責任が生じる個人事業主に対して、有限責任社員で構成する法人会社などは出資額を限度としているため、それ以上の責任を負うことがなくなります。
なお、個人事業主も「商号登記」という手続きを行うと会社の概要などを社会に公示することはできるようになります。一方で、法人が行う「法人登記」と比べると得られるメリットや信頼度が異なるため、「法人登記」をして得られる「社会的影響面」でのメリットとはなにかを確認しておきましょう。
社会的影響面のメリットは社会からの信用が高まること
個人事業主が法人を設立することで得られる「社会的影響面」のメリットは、社会からの信用が高まることです。信用が高まることで、おもに2つのことが事業運営上行いやすくなる可能性があります。
- 取引先を増やすことや、金融機関からの信用を得やすくなる
- 雇用がしやすくなる
法人設立の際に「株式会社」を設立した場合には、取引先を増やすことや融資を受けやすくなる可能性があります。株式会社は、毎年度の決算内容を国の機関紙である官報に掲載するため、取引先や金融機関が会社の経営状況を事前に把握できるようになり、会社の透明性や健全性が向上されるからです。
また、法人会社が従業員を雇用する際には、労働基準法に従い雇用保険の整備など基準法に基づく法令を遵守する義務があります。そのため、法人格があることで労働環境や待遇面が整っているというイメージに繋がり、雇用がしやすくなると言えるでしょう。
なお、法人を設立し信用を得やすくなったからといって、必ずしも融資が受けられるとは限りません。融資を受けるには、財務状況に加えて事業の計画性など金融機関によって異なる審査基準を満たし総合的に判断されるということを覚えておきましょう。
社会的影響面のデメリットは手間や管理すべきことが増えること
個人事業主が法人を設立することで生じる「社会的影響面」のデメリットは、手間や管理すべきことが増えることです。増える要因として、おもに2つのことが挙げられます。
- 設立や運営手続きが発生する
- 従業員を雇用した場合には管理すべきことが増える
たとえば、法人を設立するための「法人登記」において、費用面での設立資金が必要になるデメリットに加えて設立手続きが発生します。そして、設立後には役員の任期などに応じた年度のたびに変更登記の申請などの事務手続きを行わなくてはなりません。
また、法人を設立し事業を拡大していくにあたり従業員を多く雇用した場合には、社会保険に関わることや給与の支払いなど管理すべきことが増えます。そのため、管理をするための人材確保もあわせて行う必要も出てくるでしょう。
個人事業主が法人を設立すると、運転資金がより必要となり手間や管理すべきことが増えます。法人を設立する際には、今後の事業についての方向性などを考慮し設立することで生じるデメリットが必要不可欠なものであるかなど総合的に判断することが必要です。
法人会社設立のタイミングは場合によって異なる
個人事業主が法人会社を設立するタイミングは場合に応じて異なります。なぜならば、法人会社を設立して「どうしたいか」「どうなりたいか」など企業経営の方向性や経営状態は会社によって異なるからです。
【法人設立のタイミングとなり得る場合 一例】
- 所得と売上が一定額になったら
- 事業拡大や対法人へのビジネスを行いたい
- 社会保険の優遇を受けたい
これらはあくまで一例ですが、個人事業主が法人を設立するタイミングの参考とできます。法人化を検討している個人事業主は、具体的にどのような状況になったら会社設立を考慮し始めるのか確認をしてみましょう。
所得と売上が一定額になったら考える
個人事業主が法人を設立するタイミングは、所得と売上が一定額になったときです。一定額以上の所得や売上がある場合には、税制面で節税効果が期待できるからです。
【平成27年度以後の所得税の税率】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
【令和4年度以後の法人税の税率 資本金額1億円以下の法人の場合】
800万円以下の部分に対する税率 | 800万円超の部分に対する税率 | |
---|---|---|
普通法人 | 15% | 23.20% |
適用除外事業である法人 | 19% | 23.20% |
納税額を算定する際の「課税所得にかける税率」は、課税所得額が695万円を超えると所得税より法人税の方が低くなり、課税所得額が800万円を超えると法人税の納税額の方が軽減します。そのため、課税所得額が800万円となったら法人設立を考えるとよいでしょう。
また、2年前の課税売上高が1,000万円を超えた個人事業主は、法人設立によって消費税の免税が可能となります。2年前の課税売上高が1,000万円を超えていると、その年から消費税の納税義務が発生しますが、法人設立によって免税の特例対象となることができるからです。
ただし、消費税免税の特例を受けるには条件を満たす必要があり、設立時の資本金額が1,000万円以下で特定新規設立法人でないことや、特定期間の売上高が1,000万円を超えないなどの適用条件があります。事前に国税庁HP「納税義務の免除」を確認するようにしましょう。
事業拡大や対法人へのビジネスなどから考える
個人事業主が法人を設立するタイミングは、事業拡大や対法人へのビジネスなどを行いたいかなどで考えるとよいでしょう。法人設立によって社会からの信用が高まり、取引先を増やすことや資金調達の実現に繋げることが可能となるからです。
たとえば、法人でなければ契約ができないビジネスや、企業規模の大きな取引先を獲得していきたいという場合には法人を設立するタイミングです。法人設立によって会社の概要や経営状況などが社会に公示されるため、対法人のビジネスを行うことが可能となります。
また、事業の拡大やよりよい設備投資のために資金調達を行いたい場合には、法人設立によって社会的信用が高まり、資金調達がしやすくなる可能性があります。投資家や金融機関からの融資が受けやすくなることや、法人が利用できる補助金制度の対象となることができるからです。
事業規模の拡大や発展のために人材確保を望んでいる場合にも、法人設立によって雇用がしやすくなります。法人会社は、労働基準法の遵守と労働環境の整備が義務付けられているため、会社への信用度が増し多くの求職者からの応募を集めることが可能になるでしょう。
社会保険の優遇などから考える
個人事業主が法人を設立するタイミングは、社会保険の優遇などから考えます。法人会社を設立すると社会保険の加入が義務付けられますが、国民健康保険に比べると自身や家族に対しての優遇に差が生じるためです。
たとえば、社会保険に加入することで老後の資金として「厚生年金」を上乗せすることが可能となります。将来、国民年金から支給される「老齢基礎年金」に加えて、社会保険加入期間などから算出された「老齢厚生年金」を受け取れるので優遇されると言えるでしょう。
また、社会保険に加入をすると家族を「扶養」にできるので、健康保険料の負担を軽減することが可能です。国民健康保険は扶養という概念がなく、家族も個々に加入し保険料を支払うのに対し、社会保険は扶養の人数に関わらず被保険者の保険料の支払いのみとなります。
なお、法人会社は社会保険料の「会社負担分」を経費に計上することが可能です。従業員を雇用した場合には「雇用保険」や「労災保険」などに加入するため会社負担額が増えることにはなりますが、経費計上によって節税が可能となるので参考にしてみてください。
まとめ
個人事業主が法人会社を設立する際のメリットデメリットは、事業形態が異なることによって変化する「費用面」と「社会的影響面」から生じます。メリットとして、費用面で節税が可能となったり社会的影響面では信用が高まることが挙げられます。
また、デメリットとしては費用面で運転資金が増えることや、社会的影響面で手間や管理すべきことが増えることが挙げられます。法人を設立する際には、設立することで生じるデメリットが必要不可欠なものであるかなどを総合的に判断することが必要です。
なお、法人会社を設立するタイミングは場合に応じて考えるとよいでしょう。経営状態を顧みて「税負担を優先させたい」場合や、取引先を増やし「事業拡大を図りたい」という場合には法人会社を設立するタイミングと言えるので、見通しを立てる参考にしてみてください。